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特別展紹介(下) 天地人―木村栄がつなぐ天文学―

(上)では特別展のテーマとタイトルについて述べてまいりました。
木村栄でつなぐ「地域」「時間」「人」
壮大な天文学の世界
このふたつを展示空間で表現していくことが、今回の展示コンセプトだったわけですが、今回は展示構成と展示資料について紹介していきましょう。

1.展示構成

今回のタイトル「天地人」に即して
「天 金沢―天文学の夜明け」
「地 水沢―緯度観測所の挑戦」
「人 木村栄―受け継ぐ者たち」

という三章構成となっています。

「天」の舞台は、金沢。
・近世加賀藩における西洋天文学の導入と取り組み
・栄の金沢時代の活動や子弟・交友関係
について紹介しています。

「地」の舞台は、水沢。
・Z項発見までの経緯
・Z項発見後の挑戦と活動
について解説しています。

「人」では、栄没後の緯度観測所について。
・大きな足跡を遺した歴代所長たち
・現在水沢で行われている宇宙への挑戦
を扱っています。

これに加え、トピックでは
・栄を支えた個性豊かな緯度観測所職員たち
・栄を愛し愛された水沢の街と人々
・栄がつないだ金沢と水沢

をテーマに栄の人柄や周囲の人々を紹介しています。

このように、栄の誕生以前から没後の現代に至るまでを時間軸とし、金沢そして水沢を舞台に物語が展開していく構成となっています。

2.展示資料(水沢)

今回は栄が過ごした街・水沢に調査へ向かい、水沢に残る様々な栄の資料を借用してまいりました。
調査については過去の雑報でも触れておりますが、実際に現地へ向かわなければ気が付かなかったことや貴重なお話、運命かと思うような人々や資料との出会いがたくさんありました。
水沢での栄関係資料の調査・借用にあたり、お世話になりましたのは下記の施設の皆様(敬称略)です。

・国立天文台水沢VLBI観測所
・奥州宇宙遊学館
・奥州市立水沢図書館
・奥州市立後藤新平記念館

この他にも、ご両親が栄と親交の深かったという水沢在住の方から栄の手紙や揮毫、掛軸を寄贈いただきました。
謹んで御礼申し上げます。

新幹線のおかげで近くなったとはいえ、やはり遠く離れたイメージのある金沢と水沢。
今回お借りしたものは、普段は未公開であるものや新たに見つかった初公開資料も多数あります。
是非特別展会場で直接観覧頂きたいところですが、折角ですのでいくつか紹介させていただきます。

英国王立天文学会ゴールドメダル

国立天文台水沢VLBI観測所 蔵

1824 年よりつづく、天文学界のノーベル賞とも言われる栄誉ある賞。
英国王立天文学会は、栄のZ項の発見や中央局として長年世界の緯度観測事業を支えた功績を讃え、昭和11年(1936)に栄へ授与しています。
東洋人初の授与者という快挙でもありました。

北極軌道図

国立天文台水沢VLBI観測所 蔵

栄の執務室内に掛けれれていた北極軌道を描いた図。
地球は自転の際に、地軸に沿う形で回転するのではなく、不規則な円を描くように回っています。
それを示したのがこの軌道図です。
この図があると軸の回転の説明がとてもやりやすいのでギャラリートークの時に重宝しています。
なお、横に展示してある栄の肖像画も一緒にご覧くださいませ。何かに気が付くかも?

上記は栄の研究やその業績にかかわる資料になります。
この他にも、Z項発見につながった緯度観測野帳やメモ帳、気象観測野帳など日本の天文学草創期の貴重資料を多数展示しています。

さらに、国立天文台水沢さんよりお借りした最新の宇宙工学の解説パネルも展示しております。
宇宙の不思議・魅力がたっぷりご堪能下さい!

次に、栄の交友にかかわる資料をいくつか紹介しましょう。

西田幾多郎自筆書込入「木村榮君の思出」

国立天文台水沢VLBI観測所 蔵

栄没後、友人西田幾多郎が書いた随筆。
本書はさらに、幾多郎本人による推敲が見られます。
これは緯度観測所三代目所長・池田徹郎に宛てた幾多郎の謹呈本であり「私は木村君の旧い友達で~」とお手紙を添えており、栄と幾多郎の生涯を通した友情が垣間見えます。
贈った数か月後に幾多郎は亡くなりますので、そういった意味でも貴重な資料といえます。

後藤新平謹呈本

国立天文台水沢VLBI観測所 蔵

水沢を代表する政治家・後藤新平(1857-1929)が栄に贈った謹呈本。
後藤新平といえば、台湾の近代化や関東大震災後の帝都復興、都市衛生環境の改善など様々な業績を上げたことで知られる政治家です。
新平は栄に色々本を贈っていたらしく、栄からの御礼の手紙が新平宅に残されていました。
今回、後藤新平記念館さん所蔵の後藤新平宛木村栄も併せて展示しています。
水沢における栄の交友関係をうかがい知れる資料です。

及川藤四郎資料

及川藤四郎は水沢で大規模農園を営んでいた実業家で、栄一家とは普段から家族ぐるみで交流していました。
及川家には栄や妻・真佐喜などから送られた多数の手紙や額が残されていました。
現在その多くは後藤新平記念館さんに寄贈されましたが、今回ご実家に残されていた手紙・揮毫・軸を当館にご寄贈いただきました。
写真の額は、及川藤四郎が「木村先生との大事な思い出だから」と額に入れて飾っていた書簡類です。
また、同じく展示してある後藤新平記念館さん所蔵の木村真佐喜書簡(栄の一周忌についての及川夫妻への御礼や思い出話)には、栄の水沢愛や及川家との親しい交友関係が綴られています。

さらにさらに!
なんと、後藤新平記念館さんが所蔵していた映像資料の中に、生前の栄の姿が収められていました!
今回特別にその映像を公開しております。
栄だけではなく、当時の水沢の原風景もお楽しみいただけますので、ご視聴を希望の方は受付にお声がけくださいませ。

以上のように、水沢で出会った数多の木村栄関係資料を展示しております。

3.展示資料(金沢)

地元・金沢では木村栄関係資料と「近世金沢の天文関係資料」を借用しています。
いつもお世話になっている
・金沢市立玉川図書館近世史料館
・石川県立歴史博物館 (敬称略)
からは近世金沢の天文関係資料をお借りしました。

金沢といえば、尊経閣文庫の東寺百合文書、源氏物語などに代表されるような歴史資料や金箔工芸等々…歴史と文化の都というイメージが持たれがちですが、今回は金沢における天文学に焦点を当てています。
金沢に西洋天文学が伝来したのは19世紀に入ってからでした。
様々な階層の人々が力を合わせて天体観測や測量技術の近代化に励んでいきます。彼らの遺した天文関係資料を展示しております。

今回中心となっているには、近世史料館さん蔵「河野文庫」です。
「河野文庫」は天文観測事業に携わった河野久太郎通義の子孫が図書館に寄贈した資料群で、そこには天体観測・測量の手法や書簡のやりとり、彗星観測の記録図などが多数残されています。

普段あまりスポットの当らない「金沢と科学技術」分野に是非触れてみませんか?

次に、金沢に残る木村栄関係資料ですが、これは栄の没後に結成された木村栄博士顕彰会の資料が金沢市立十一屋小学校さんに残されていました。
十一屋小学校さんは栄が幼少期を過ごした泉野の校区(当時はまだ泉野小学校がなかった)だったことから、地域の偉人として当時の校長先生が顕彰会会長となって顕彰活動を進めていました。
現在も歴史記念室の中に「木村栄コーナー」が設けられています。

今回は十一屋小学校さんから、たくさんの資料をお借りしています。

木村栄胸像原型

金沢市立十一屋小学校蔵

こちらは偉人館の庭にもある木村栄の胸像の原型になります。
この胸像は水沢に二か所、金沢に二か所あります。
水沢が先に制作し、その後金沢でも水沢と連絡をとって同型の胸像を制作たした経緯があります。
木村栄がつなぐ金沢と水沢を象徴する資料といえます。

揮毫「戒模擬勗創造」

金沢市立十一屋小学校蔵

「もぎをいましめ そうぞうにつとめよ」
(真似ばっかしてちゃイカン!自分たちで0から創り出すようにならな!)
という意味で、栄はよく好んでこの言葉を揮毫したといいます。
とても大きな額ですので、是非身近でご堪能ください。

この他にも、水沢の方々も見た事がないという地元・金沢ならではの写真類も展示しております。

ということで、今回はいつもより出血大サービスで資料紹介を行いました(なんせ会期がひと月以上過ぎてますからね…)
とはいえ、やはり資料は現地で本物を眺めてお楽しみいただくのが一番!
皆様のご来館、心よりお待ちしております。

次回はおまけで、期間限定コラボや講演会についてご紹介!

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