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『光を追うて』にみえる金沢の地名

(※この記事は、旧雑報で2021年 4月21日に掲載したものを抜粋・加筆したものです。本企画展は8月31日(火)まで休館のため中断中)

今回の雑報では企画展の内容をチョロッとだけご紹介。

本企画展はタイトルにもある徳田秋聲の自伝的小説『光を追うて』をコンセプトに構成されています。作中に登場する金沢の地名や偉人について、史料などを交えながら紹介していきます。このうち地名について少しみていきましょう。

前回でも触れましたが、秋聲の家族は仮名で、桐生悠々などその他の登場人物は全員実名で描写されています。秋聲本人は「向山等(むこうやまひとし)」という名の主人公でとして登場。

向山というのは、金沢市民ならお馴染みの卯辰山の別称です。秋聲は幼少~少年期に四度の転居を経験していますが、思い出の地として一番描かれているのは二度目の転居先だった御徒町(現・東山)の頃のこと。東山地域は卯辰山の麓にあたり、「この山は自分の庭のように行きつけになっていた。」(四章より抜粋)と語ります。

こうした地名(施設名)が登場する箇所を抜き出して、パネルにまとめています。併せて今回、金沢市立玉川図書館近世史料館さん所蔵の『金澤勝地賑雙六(かなざわめいしょうにぎわいすごろく)』など明治の金沢を舞台にした絵画資料を展示し、視覚的にも明治期の金沢の雰囲気を楽しめる構成になっています。

展示物20210421

『金澤勝地賑雙六』のコマを見眺めてみると、「櫻馬場芝居」の文字が。どこぞ…?と調べてみると、現在の東山にあった芝居小屋のことだそう。『光を追うて』では、この芝居小屋の描写が少年期の思い出の場所として散見されます。

等の少年期に、早くも好ましからぬ敗徳の種子を卸したあの芝居小屋も、世間の景気につれて出 現したものだった。この建物は最初は山のうえにあった。(四章より抜粋)

芝居にはまって小屋に足繁く通っていた思い出の場所を、「早くも好ましからぬ敗徳の種子を卸した」と表現しているのが個人的に好きです。

この他にもたくさんの地名が登場しますので、展示の絵画資料と見比べてみてください!また、今回作中に出てくる全部の地名・施設を取り上げているわけではないので、興味の沸いた方は『光を追うて』を手に取って見てください(^^)